病気を根絶するために殺虫剤を使う場合,最も効率のいいやり方は建物の中で使うことだ。WHOはほとんどの場合,この「室内残留性噴霧」に頼っていた。この使い方だと1年間は薬剤が残るため,DDTは特に効力を発揮する。最も重要なのは,蚊の多くは建物の中に入ってこないためDDTに触れることがなく,耐性がそれほど急速に生じないという点だ。室内残留性噴霧は,家の中に入って人々を刺し,病気を媒介する恐れのあるごく一部の個体だけに影響を及ぼすので,個体群に対する淘汰圧はそれほど高くない。たいへん理にかなった方法だ。
ところが広い農場に殺虫剤を撒くと個体群の大部分が死ぬ。しぶどく生き延びた個体と交配するのは,やはり逆境を生き延びた個体だ。すぐ次の世代にも耐性が生じるかもしれない。農場で広く使えば使うほど昆虫が急速に耐性を獲得する可能性が高まり,病気を撲滅する目的で必要になったときには,殺虫剤の効力が低下しているかもしれない。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(下) 楽工社 pp.180
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