科学者が沈黙する1つの理由は,科学の中で行なわれている個人とグループの間の複雑なダンスにある。科学者は大きな発見をして得られる賞賛と威信に強く動機づけられている。しかしそれと同時に,科学者は自分自身が脚光を浴びるのをしばしばためらう。その理由には2つの面がある。まず,現代科学の成果はほぼ例外なくチームワークによって生まれるということがある。この点については後でまた触れる。そしてもう1つ,たとえ1人の人間の天才あるいは創造性から生じていても,知識が科学の一部になるのはそれが専門家たちの意見の一致を反映している場合だということがある。現代の世界において科学が飛躍的に前進するのは,数十人,あるいは数百人の研究者の集合的な努力の結果であることが普通だ。現在のIPCCは数千人の研究をまとめ上げようとしている。前に出て同僚たちを代表して話す科学者は,すべての栄誉を独り占めにしようとしていると非難されるリスクを犯すことになる。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(下) 楽工社 pp.251
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