もちろん,評価報告書を全部読んでくれると期待するのはバカげている。だから誰かが要約して伝える必要がある。ここにもう1つの困難が生じる。科学者は知識を生み出す能力を高度に磨き上げた専門家だが,広く一般の人々にどうやって伝えたらいいかという点でほとんど訓練を受けていない。豊富な資金を背景に決然と攻撃を仕掛けてくる人々から科学研究を守る方法については,なおさら訓練ができていない。自分にはそういう才能がなく,趣味にも合わないと思っている場合が多い。最近までほとんどの科学者は,研究内容を広く伝えることに時間を割こうとは特に思っていなかった。彼らは自分の「本当の」仕事は知識を生み出すことであって,知識を広めることではないと考え,この2つの活動は互いに相容れないと思っていることが多い。一般の人々に研究内容を伝えようとする同僚を鼻であしらい,「通俗化」にかまける者として軽んじる科学者もいる。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(下) 楽工社 pp.252
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