脳活動計測といっても実際の脳活動の絶対値が計測されるわけではありません。動物実験などで,1つ1つの神経細胞の活動を記録する場合には,平均して1秒間に何回,神経細胞が電気的インパルスを発したかという数値を示すことができます。そして神経細胞が活動していない場合にはこの値はゼロになります。ところがfMRIやNIRSといった脳画像による脳活動計測では脳の血流を測定しているのです。脳は当然生きている細胞の集まりなわけですから,何もしないでいても脳の中を血が流れています。そこで脳画像研究では,何かをしているときには,何もしていないときにくらべて脳のどの部分が活動しているか,というデータが示されます。
ここで問題があります。何もしていないとき,というのはどんな状態でしょう。何もしていないでじっと静かにしていてください,と被験者に指示しても,被験者が何を考えているかはわかりません。いくら何も考えないでじっとしていてくださいと被験者に言っても,やっぱり何か考えてしまいます。夜の星空を眺めているようなつもりでリラックスしてください,という指示がひと昔前にはよく使われていましたが,これもなんだか作為的ですし,実際そのようにしているときにも脳の特定の部分が活動していることでしょう。
坂井克之 (2009). 脳科学の真実:脳研究者は何を考えているか 河出書房新社 pp.115-116
PR