実際のところは,このような人生指南を語るにあたって「脳」は必要ないのではないでしょうか。脳科学風な生活の知恵や人生指南は研究成果の情報発信ではなく,脳にことよせた1つの文学に過ぎないのではないでしょうか。このような脳科学風の「語り」をする人たちのことを「脳文化人」と呼びます。さらに脳研究で明らかになったことのうち面白い側面ばかりを強調し,ウケをねらうことばかりを考える「芸脳人」もいます。もちろん「脳文化人」たることも1つの生き方であり,また一般の人々がこのような形の情報発信を求めることも否定されるようなことではありません。また脳文化人の著作には文芸書として見た場合,質の高いものもあります。ただし科学ではありません。「脳科学による証拠」にもとづいた教条主義が,文化的な香りをまとって現れただけのようにも思えます。
坂井克之 (2009). 脳科学の真実:脳研究者は何を考えているか 河出書房新社 pp.195-196
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