第1は,パーソナリティ研究が,実験心理学を主流とする心理学の発達史のなかで,常に異端者としての役割を果たしてきた点である。19世紀後半に,心理学は大学の学問分野のなかに初めて公式の市民権を認められることになるのだが,その心理学とは実験心理学の謂にほかならなかった。実験心理学は,英国経験論その他によって与えられた認識論的な課題を,物理学をモデルとする自然科学的手法を借りて解決しようとする一種の境界領域として誕生したとみられる。その開祖であるW.ヴントやアメリカ心理学の始祖W.ジェームズが,いずれも感覚心理学についての基礎的素養のうえに生理学教室内に心理学実験室を創設し,後年はむしろ哲学者として正名をはせたことは,この事情を象徴的に物語っていよう。
ジェームズは,しかし,実験心理学のもつ冷い抽象的性格にあきたらず,次第に別の途を求めていったけれども,ヴントの主導した実験心理学の本流は,純粋に理論的関心とりわけ方法論的要請に左右されて,その問題領域を定めたのであった。あえていうなら,綿密な実験的分析に適し数量的測定の可能な事象が心理学のまず第1の対象とされ,それ以外は実験心理学の領域からは疎外されていった。さすがにヴントは,それのみでは十分ではないことをよく知っていたが,彼の創りだした流れをもはや止めることはできなかった。物理主義を正面に押しだした後の行動主義への転回は,けっして偶然の所産ではなく,その布石は実験心理学の生誕とともに準備されていたとさえいえるだろう。
藤永 保 (1991). 思想と人格:人格心理学への途 筑摩書房 pp.12
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