パーソナリティ研究のもつ第2の特色は,それゆえ,まず機能主義的方向を目ざす点にある。いいかえると,生活体の適応という主題に常に最大の関心が払われている。実験心理学者が,感覚を一種の「モノ」とみなし,人間の心を感覚的要素から組み立てられた寄せ木細工なみに扱っていた時代に,フロイトはすでに,運動・感覚麻痺という身体症状を前面に押し出しているヒステリーという病気が,けっして器質的な障害などではなく,通常の手段によっては対処できなくなったために発動された過剰な適応過程にすぎないことを見破っていた。物忘れやいい損ないも同じようにみることができる。つまり,ある行動を説明しようとするとき,「いかに」というメカニスティックな説明原理と並んで,「なぜ」そのようなふるまいがとられるのか,その裏に潜んでいる動機は何かを探求するというもう1つの原理のあることが知られる。パーソナリティ理論家は,行動を支配するメカニズムよりは,それを制御する目標や動機の力に,より多くの関心を払う。「いかに」よりは「なぜ」「何のために」に注目するのである。
藤永 保 (1991). 思想と人格:人格心理学への途 筑摩書房 pp.13-14
PR