記者クラブの記者ならば,他紙に自分の書いたものと同じ内容の記事が載っていた途端,心から安堵するに違いない。さらにコメント内容まで同じならば,より確かな安心が待っている。問題は,同じような取材をしていて,自分だけが独自の記事を書いてしまった場合だ。
朝刊でスクープ記事を書いた記者が,どの新聞社も追ってこないことに不安になり,自らライバルたちに情報をリーク,他紙の夕刊に書かせるという信じがたい話は,記者クラブであるならば少しの違和感もなく受け入れられることだろう。
実際に筆者もその種の行為をいくつか見聞している。独自ネタでスクープ記事を書いたまではよかったが,のちに心配になったのだろう,各方面に電話を入れ,自分の記事が逸脱していないかどうかを確認して回った新聞記者を知っている。
その記者は,他紙が夕刊で追ってこないことを知るとさらに焦った。そしてテレビ局の記者にリークし,夜のニュース番組で扱われたのを知って,ようやく安心した様子を見せたのである。
彼らの職業は一体何なのか?自分を信頼できない人間が,記者と名乗って自信のない記事を書く。それを読むのは読者だ。読者こそが災難だ。一体,自らの自信の持てない記事を出して,どのように読者を納得させようとしているのか。
上杉 隆 (2008). ジャーナリズム崩壊 幻冬舎 pp.39-40.
PR