しかし,その点でもっとも衝撃的な影響を与えたのはJ.P.ギルフォードによる収束的思考対拡散的思考の二大別である。彼は第二次世界大戦中アメリカ陸軍の戦略局に動員され,そこで臨機応変の対処能力,ひいては思考の流暢性とは何かの研究に携わったことから,上の概念に到達したといわれる。当初から,彼の発想は定型的ではない課題解決過程に指向していた。
収束的(convergent)とは,さまざまな刺激状況が常に同一の目標反応に結びつく事態を指す。拡散的(divergent)は,反対に,同一の刺激状況が多様な目標反応に結びつきうる事態である。収束的思考とは,したがって,正答が一通りに定まっているような課題状況における思考様式を指し,拡散的思考は逆に型通りの解決が与えられていない課題,解決やそこに至る通路そのものを構想しなければならない事態,極端にいえば問題そのものがまだ現前していない状況下で未然にそれを感得する事態等々における思考様式を指すことになる(以上の説明では簡略にすぎて誤解を生むおそれがある。正答が一通りに限られていても,解決過程は多様である場合は数学などによくみうけられるし,逆に多様な回答はありえても自ずと良い解決が定まるという事態は作文などに典型的に認められるだろう。この点もう少し議論の必要があるのだが,前述のハイムなどを参照して欲しい)。
この語を用いるなら,知能テストは収束的思考の能力を測るテストの典型だということが分かる。では,拡散的思考の能力を測るにはどうすればよいか。
以後,この要請に応えて,創造性テストと呼ばれるものが続々と作りだされていく。その代表は,ギルフォードによる日常的事物の用途をできるだけたくさん案出させる用途テスト,連想の豊かさやかけはなれた連想能力をみる連想テスト,二本の線を与え,これにかき加えて意味のある図形を作る描画テストなどであるが,その他にもたとえば抽象的な線描のパタンに対してできるだけ多くの意味づけを与えるパタン意味づけテストなどいろいろ考えられよう。
藤永 保 (1991). 思想と人格:人格心理学への途 筑摩書房 pp.82-83
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