最近の動物福祉の運動のなかでは,アプローチをもっと単純化して「その動物は健康か?」「その動物が必要としているものを与えているか?」と単に問うにとどめるべきだと提唱されるようになった。この考え方は,オックスフォード大学で動物福祉を研究するマリアン・ドーキンス教授によって導入されたもので,彼女の目的は動物福祉の評価基準を単純化するところにある。
ドーキンスの2つの問いは,酪農用に飼われているウシの群れを対象に直接問えるようなレベルにまで問題を具体化するが,その射程には依然として限界が存在する。やっかいなことに,私たちはすべての動物を同じ見方で捉えているわけではないのである。
たとえば2つの問いは,牛舎で飼われている肉牛,バタリーケージ[多段式のケージ]で飼われているニワトリ,海中の囲いのなかで飼育されている魚,養殖池で飼育されている小エビ,これらのいずれに対しても等しく問える。福祉の配慮をウシやニワトリにまで広げるのは確かになぶさかではなかろう。
本書では,さらにそれを進めて,魚にも同様の保護を与えるべきかどうかを,そしてそうすべきなら,それは何を意味するのかを考える。
だが,小エビに対して福祉の配慮が必要なのか?
どこにどうやって線を引けばよいのか?
それらの問いに答えるには,どのような基準が重要なのかを,また,ある動物が適切な福祉の配慮を必要としているかどうかを,どんな特徴によって判断できるのかを検討しなければならない。それにはいくつかの方法があるが,まず何よりも最初に問われるべきは,「その動物は痛みや損傷によって苦しむのか?」である。
ヴィクトリア・ブレイスウェイト 高橋 洋(訳) (2012). 魚は痛みを感じるか? 紀伊國屋書店 pp.44-45
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