私たちは「幸福」,「みじめ」などのきわめて単純な言葉によって,動物がどう感じているかを表現しようとする。動物の行動を解釈するのに,そのような言葉を用いるのは不適切かもしれない。だが一般的な表現のなかでは,あたかも遊んでいるかのように,あるいはじゃれあっているかのように振るまっている動物は,ポジティブな心の状態にいるように見えるという事実を示唆する,「幸福」のような言葉の使用が便利な場合もある。あるいは元気がなかったり,隅のほうでじっとしていたりすると,その動物は「みじめ」な心の状態に置かれているようにみえるはずだ。
通常は人間の情動に関して用いられる言葉を,動物に転用する際には注意が必要なのはいうまでもないが,私たちは,そのときの動物の気分がポジティブかネガティブかをみわけることくらいはできる。心の状態や情動は,痛みの経験のあり方,感じ方に影響を及ぼす重要な要素なのである。
ヴィクトリア・ブレイスウェイト 高橋 洋(訳) (2012). 魚は痛みを感じるか? 紀伊國屋書店 pp.52
PR