皮膚の特殊な受容体が刺激を受けると,それは何かが皮膚にダメージを与えているという情報を身体に伝える。最初にやけどが検出され,その情報を伝達する信号が脊髄背角へと伝わり,そこで反射反応が引き起こされる。
ここまでは,すべて無意識に生じる現象だ。つまりそれについて考えることなく,ただそうするのだ。そしてこの時点では,苦しみと認められるような経験は何も起きていない。信号は,脊髄に到達して反射反応を引き起こしたあと,脳に至る。そのときはじめて,私たちは痛みを感じはじめる。
いまや私たちは,やけどによって引き起こされた不快な情動的感覚に気づき,脳は,たったいま自分がとった行動が痛みをもたらしたのだと告げる。脳細胞組織のダメージの形態によっては,何らかの痛みが感じられるまでに2秒ほどかかる場合があるが,ほとんどのケースでは痛みはそれよりも早く感じられる。
このプロセスのうち無意識下で生じている部分は,侵害受容(nociception)と呼ばれているが,「noci」は損傷あるいは何らかのダメージを,また「ception」は知覚あるいは検知を意味する。すなわち「侵害受容」とは,文字通り損傷やダメージの検出を意味している。
哺乳類や鳥類では,皮膚表面の侵害受容体が刺激されると,細胞組織へのダメージに関する情報の伝達に特化した神経線維のなかで,電気信号が発生しはじめる。そして信号が脊髄に達すると,反射反応が起こる。感覚受容体がどのように活性化されるのか,またそれがさまざまな種類のダメージにどう反応するのかについては,痛みの調査を行っている研究者によってすでに解明されており,侵害受容は比較的単純なプロセスだといえる。
それに比べていまだによくわかっていないのは,それに続く,脳への信号の伝達と,意識的な痛みの検出のプロセス,つまり何がどれくらい強さで痛むのかを認知する過程についてだ。
ヴィクトリア・ブレイスウェイト 高橋 洋(訳) (2012). 魚は痛みを感じるか? 紀伊國屋書店 pp.56-57
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