何度も尋ねられたのは,「そうだとすると釣りは残酷な行為なのか?ほんとうに魚は痛みを感じているのか?」という問いだった。
だが私たちは,この質問にはまだ答えられなかった。研究の焦点は,マスが痛みに特化した受容体を備えているかどうかに,またそれらをハチの毒や酢で刺激するとどのような反応がみられるかにだけ置かれていたからだ。
つまり私たちはまだ,魚が痛みを知覚したり,それに苦しんだりすることを示したわけではなかった。したがってせいぜい「その可能性は考えられる」と返答できるにすぎなかった。しかし案の定,その返答で私たちの研究について報道しようとしてやってきた多くの記者を満足させられず,そんなことをいったつもりはないのに,新聞記者やインタビューの導入解説では,研究によって,釣りが魚に苦痛を引き起こすことが示されたと報じられてしまった。
ヴィクトリア・ブレイスウェイト 高橋 洋(訳) (2012). 魚は痛みを感じるか? 紀伊國屋書店 pp.95-96
PR