意識の基盤を分類しようとする試みは数多くあるが,意識の様相を呈する行動要素をみいだそうとする本章の目的からすると,ニューヨーク大学で心理学と認知科学を教える哲学者ネッド・ブロックによって提起された3つのカテゴリーについて考えてみると有益だろう。
彼は,記憶に結びついた心の状態について考えたり描写したりする能力を「アクセス意識」と呼び,これを第1のカテゴリーとする。私たちは内省を通じて何らかの情報について考え,またそれについて考えている自分の思考の動きに気づくことができる。これは,「一次意識」と呼ばれてきたものに類似し,さまざまな情報の断片を結びつけて心的イメージや心的表象へと統合し,そうして統合された知識を用いて自らの行動と決定を導く能力を指す。たとえば,読者は自分の住む町の詳細な地図を思い浮かべられるはずだが,このメンタルマッピング能力を用いて,これまでめったに訪れたことのない場所から自宅へ帰るためのルートを割り出せるのではないだろうか。
ブロックの提起する2番目のカテゴリーは「現象意識」である。これは,自分の周りのできごとを感じ取るという経験,そして直面したできごとによって引き起こされる感情や情動を指し,「意識のハードプロブレム」と呼ばれてきた。そう呼ばれているのは,自らの存在を知らしめる感情,すなわち現象意識を生成する脳内のメカニズムを理解することは不可能だと考えられているからだ。この考えはまた,「感覚力」,すなわち環境を主観的に知覚し感じる能力とは,いったい何なのかについての本質をとらえている。
3番目のカテゴリーは「モニタリングと自己意識」だ。これは自分自身の行動について考え,それを心のなかで実行することで1つの状況を思い浮かべ,その状況のなかで起こりうる,さまざまなシナリオを考慮する能力を指す。これは自己意識と,ヒト同士が言語を通して行う情報交換を可能にする,「より高次の」進んだ能力だと考えられてきた「延長意識」の概念に近い。
ヴィクトリア・ブレイスウェイト 高橋 洋(訳) (2012). 魚は痛みを感じるか? 紀伊國屋書店 pp.113-114
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