たとえばp < .1を指して,有意傾向と表現することがあります。このような表現は,帰無仮説検定に,本来は存在しません。ある有意水準を基準として,結果に意味があるか否かを,デジタルにズバッと分けてしまうのが帰無仮説検定なのです。帰無仮説検定に基づくなら,有意傾向などと言わずに「10%水準で有意」と言うべきです(もっとも,有意水準を10%に設定することを他の研究者が認めてくれるかは別問題です)。
もちろん先ほど述べたように,p = .049とp = .051の間でなにか決定的な差があると考える人は,現実的にはほとんどいないので,有意傾向という表現が使われるのでしょう。しかし,帰無仮説検定の規則に従えば,そのような表現は存在しません。デジタルな2分法こそが,帰無仮説検定の本筋だからです。帰無仮説検定の極端な2分法を皮肉り,Rosnow & Rosenthal (1989)は,「神はp < .06をp < .05と等しく,そして同じくらい強く愛してくださる(p.1277)」と述べたくらいです。
大久保街亜・岡田謙介 (2012). 伝えるための心理統計:効果量・信頼区間・検定力 勁草書房 pp.35
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