さらに厄介なのは,近年になってインターネットの普及により,「思考盗聴」「集団ストーカー」という概念が広まってしまったことだ。統合失調症の人が自分の「思考盗聴」「集団ストーカー」体験をブログやホームページに書く。それを読んだ別の人が,「私と同じ体験をしている人がいる」「やっぱり妄想ではなかったのだ」と確信してしまう。彼らが結束して「被害者の会」を結成することもある。そうしたグループがすでに日本にも存在する。彼らは,「陰謀組織が自分たちを精神病と決めつけることで,社会的に抹殺しようと企んでいる」と信じている。だから病院に行くことを強く拒絶する。
繰り返すが,精神病でも病院に通いながら通常の日常生活を送っている人は大勢いる。一時は入院していても,寛解して社会復帰する人も多い。「精神病だと判定されると社会的に抹殺される」という考え方こそ,まさに精神病に対する偏見であり,改めなくてはならないのだ。
適切な治療さえ受ければ症状が良くなるかもしれない人が,「集団ストーカー」という妄想を信じたために,救われることを拒否して,自ら苦しい道を選んでいる。こうした悲劇を減らすためにも,統合失調症についての正しい知識が広まるのを強く望むものである。
ASIOS・奥菜秀次・水野俊平 (2011). 検証 陰謀論はどこまで真実か パーセントで判定 文芸社 pp.37-38
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