正しい推論を最初に明快に説明したのは,イギリスの科学者ジョン・ティンダルだった。ティンダルは大気がどのようにして地球の温度を制御するのかあれこれ考えたが,当時の科学者の大半が信じていた「すべての気体は赤外放射に対して透明だ」という意見によって邪魔されていた。1859年,彼はこの意見を実験室で確かめることに決めた。大気の主成分である酸素と窒素は実際に透明だということが確認された。そこで実験をやめようとしたとき,石炭ガスを試して見ることを思いついた。これは,石炭を加熱することによって生産される人工的な気体で,主な成分はメタンで,照明のために使われていた。実験室にパイプで送り込まれていたので,ちょうど手近にあったのだ。ティンダルは,このガスが熱戦に対して木の板と同じくらい不透明だということを知った。こうして産業革命は,灯用ガスの炎というかたちでティンダルの実験室に侵入し,地球の熱収支に対する重要性を宣言したのだ。ティンダルはさらにほかの気体を試していき,CO2も同じように不透明だということを知った——現在では温室効果気体と呼ばれるものだ。
スペンサー・R・ワート 増田耕一・熊井ひろ美(訳) (2005). 温暖化の<発見>とは何か みすず書房 pp.9-10
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