気象学は特に優遇された。空軍は当然のことながら風に関心があり,とりわけ気前よく支援していたが,その他の軍機関および民間機関も,いずれ天気予報の精度を向上させるかもしれない研究を奨励した。毎日の予報のほかに,意図的に天気を変えることを夢見る専門家もいた。ヨウ化銀の煙によって雲に「種をまく」ことで雨を降らせる計画が1950年代に世間の注目を集め,官僚や政治家たちもこの件を気に留めた。アメリカ政府は,時宜を得た雨による農業の向上を期待して気象学のさまざまな研究に資金提供することを迫られた。天気を理解している国家は,干ばつまたはやむことのない雪——まさに「冷戦」!——によって敵を全滅させることも可能かもしれない。少数の科学者は,雲の種まきなどの手段による「気候学的戦争」は核爆弾すら上回る強大な力をもつようになりかねないと警告した。
スペンサー・R・ワート 増田耕一・熊井ひろ美(訳) (2005). 温暖化の<発見>とは何か みすず書房 pp.33
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