一般大衆は,1990年代に気候科学者を最も驚かせた新事実にほとんど気づいていなかった。最初のショックは,グリーンランドの氷の大地の中央からだった。アメリカとヨーロッパの新たな共同研究プログラムを実施するという当初の希望は挫折して,それぞれのチームが別々の穴の掘削にとりかかった。だが,両方のコアに見られる現象は基盤岩の状態のせいによる偶然ではなく実際の気候の影響を示すはずと考えられるように2つの穴を適度に離して掘るという決定により,競争は協力に変わった。2本のコアは,その大部分にわたって驚くほど正確に一致していた。コアの比較から,気候はほとんどの科学者が想像していたよりも急速に変化しうるということが説得力をもって示された。
1960年代には何万年もかかると信じられ,1970年代には何千年もかかると信じられ,1980年代には何百万年もかかると信じられていた温度の上昇下降が,わずか数十年で起こりうるということがいまや発見されたのだ。最終氷期の間に,グリーンランドではときどき,50年足らずの期間で7度も温度が上昇していた。新ドリアス期に入ったときには,北大西洋全体の気候の壮大なシフトがわずか5層の雪の中に見られた。つまり5年間だ!証拠は疑わしいとして片づけることはもはやできなかった。少なくとも1つの解釈が手元にあったからだ。計算機モデルは,北大西洋循環が2つの状態の間を急激に変化する可能性を証明したのだ。同時に,ほかの大陸からのさまざなな種類の地質学的証拠により,新ドリアス期は北大西洋周辺だけでなく地球全体に気候変化をもたらしたことが示された。
スペンサー・R・ワート 増田耕一・熊井ひろ美(訳) (2005). 温暖化の<発見>とは何か みすず書房 pp.228-230
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