欧米人にとって「依存」は,生活保護や薬物依存を想起させるマイナスのイメージを持った言葉であり,いっぽう「独立」や「自立」,「自由」は美徳であり,倫理的に絶対必要なものである。ところが日本語では,たとえば「自由」は,きわめて曖昧な概念だ。日本にはそのものずばり,自由党という政党があった(2003年解散,民主党と合併)。しかし,「自由」という言葉は,集団の意思に反して自分の好きなように行動する権利を主張し,他者を無視して自己の欲求を優先する身勝手な人間をも想起させるのである。19世紀の半ばまで封建制度が敷かれ,1870年代になるまで民衆の大部分が名字を持たず,1945年まで天皇は神だと信じられていた日本の社会では,欧米人にとって当然のこととされていた,国家と神,国家と自然,社会と自己の明確な区別はまったく存在しなかった。
マイケル・ジーレンジガー 河野純治(訳) (2007). ひきこもりの国:なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか 光文社 pp.102
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