日本のマスコミには,悪名高い「記者クラブ」なるものが存在し,主要な中央省庁と一般市民とのあいだの情報流通を妨げている。大手新聞社と主要テレビ局の報道関係者で構成された強力な記者クラブは,それに所属していないジャーナリストを定例記者会見やブリーフィングから締めだす権限を握っている。情報は勝手に広めてはならないのだ。東京に赴任した最初の年,私は当時の菅直人厚生大臣の記者会見場から,襟首をつかまれて引きずり出された。会場に入る前に記者クラブの「キャップ」にきちんと許可を求めなかった,というのが理由だった。フリーランスのジャーナリストや私のような外国特派員は,ブリーフィングや記者会見を取材したいときには事前に特別の許可を求めなければならず,しかも,しばしば断られる。
記者クラブのメンバーたちは,よく1か所に集まって,ニュースをどのように報道するかを話しあい,統一方針を決める。記者会見後,公表された事実をまとめたメモを持ち寄って,内容を決めてから編集局に記事を送る,というのが慣例化しているのである。ゆえに日本では,毎日どの新聞を開いてみても,事実上まったく同じ内容の記事が載っている。ある日本人記者は不満を漏らした。「私たちは,翌朝出る新聞がみんなそっくり同じになるように,一日中駆けずりまわっているんです」
マイケル・ジーレンジガー 河野純治(訳) (2007). ひきこもりの国:なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか 光文社 pp.176-177
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