日本人は,自宅でじっとしているときも日本のライフスタイルの貧弱さに直面している。日本は,15年にもわたる不景気にもかかわらず,名目上はたいへん豊かな国なのに,日本人の大多数が隙間風が通るような安っぽい造りの窮屈で野暮ったい家に暮らしている。この事実には誰もが衝撃を受けるにちがいない。間に合わせの材料で適当に建てたようなアパートメントや家が多く,いろいろとうるさい規制があるため細部のデザインにはろくに注意が払われておらず,住人のプライバシーもまともに確保されていない。
かつてフランスの外交官から「ウサギ小屋」と評されて世界に悪名をとどろかせた日本の家は,いまもその頃とほとんど変わっておらず,豊かな国民が暮らすぬくもりあるすてきな家とはいいがたい。毎日仕事が終わったあとも,遅くまでレストランや酒場で過ごし,なかなか家に帰ろうとしない日本人が多い理由がわかるだろう。狭苦しくて居心地の悪い家には,あまり早く帰りたいとは思わない。韓国の首都ソウルに林立する公営の巨大な高層住宅でさえ,日本の平均的な住宅よりもずっと広いスペースがある。だが最近では海外に出かける日本人も増えているので,たいていの者はわかっているはずだ。政財界の閉鎖的ネットワークの策略で日本の消費市場は開放されておらず,真の競争が行なわれていないので,物価が高くつりあげられ,商品選択の幅が狭められているということを。
マイケル・ジーレンジガー 河野純治(訳) (2007). ひきこもりの国:なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか 光文社 pp.213-214
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