ヴィトン製品をけなすつもりはない。ルイ・ヴィトンの製品は,顧客からかなり高い評価を受けている,一級品ばかりであることは疑いはない。しかし,どこにでもいるようなロワーミドルクラス(中流の下)の日本人たちは,なにゆえ,蒸し暑い夏の朝に,何時間も辛抱強く歩道に並ぶという屈辱的な行動をとるのか,たかがハンドバッグ1つを買うために。若い秘書,主婦,それにほとんど収入のない高校生までが,何日も前から路上に座りこみ,ほかの国ならエリートや上流人士専用の高級品か,でなければ,くだらなくてアホらしい無意味なものとしかみなされない物品を買いもとめようとする,その動機は何か。
ほかにも,ちぐはぐな点がある。誇示的消費というのは,大金持ちが豊かさを自慢したり,周囲の者にそれとなく自分のステータスを知らせるためのものである。だが,フランスの女子相続人やイタリアの男爵夫人が,高価なハンドバッグを買うために恥を忍んで路上に行列を作るかというと,そんなことをするわけがない。それはとてもはしたないことだ。カルセル(引用者注:最高経営責任者)はOLやアルバイトのみすぼらしい行列に目をやりながら,そのことを認めた。
マイケル・ジーレンジガー 河野純治(訳) (2007). ひきこもりの国:なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか 光文社 pp.223
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