いっぽう日本では,人工妊娠中絶は倫理的タブーではなく,政治的な反対も存在しない。中絶は封建時代から社会的に容認されており,現在も,コンドームや「周期避妊法(オギノ式)」と並んで,日本でもっとも普及している産児制限法である(例年,約34万件の妊娠中絶が報告されており,これは出生数の約30パーセントに相当する高い数値である)。ピルについては,外国の製薬会社が9年にわたって精力的に働きかけた結果,やっと1999年に認可されたものの,現在使用しているのは日本女性の5パーセント未満だという。医師はよく女性患者に対して,ピルを使った避妊は「不自然」であり,健康を害する場合もある,と告げる。「ピルを服むと危険な副作用があるといわれるんです」とシズコはいう。そのかわり日本の医師は中絶を勧めるのである。というのは,ピルを処方するよりも,中絶手術をしたほうが,健康保険からの診療報酬をたくさん稼げるからだ。
マイケル・ジーレンジガー 河野純治(訳) (2007). ひきこもりの国:なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか 光文社 pp.254
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