海外で何年も活動したのちに帰国した日本人の多くは,自分の思考や行動が「突出」しないように,自己検閲,自己監視するようになるという。そうした人々が,古い企業の硬直したシステムにふたたび順応するのにとても苦労するという話をよく聞く。そういう企業では,仕事仲間のあいだで異質な存在にならないように,そして無用な摩擦を起こさないように,海外で活動していたことは「きれいさっぱり忘れろ」といわれるのである。しかし,けっきょくなじめずに,国内の外資系企業に転職するものも少なくない。また,彼らの子供は,外国語を話すだけでなく,しぐさや表情も日本人のそれとは違ってしまっているので,学校で陰湿ないじめや虐待を受けることが多い。
もう二度と日本には戻れないという海外在住者もいる。隔たりが大きすぎるのである。現在,アメリカの法律事務所や監査会社は,欧米で学び,日本に帰れなくなった才能ある日本人であふれかえっている。彼らが見捨てた日本の組織は,たいていの場合,そういう才能ある元社員が海外で身につけた技能や知識から利益を得ようとは考えもしないようである。
マイケル・ジーレンジガー 河野純治(訳) (2007). ひきこもりの国:なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか 光文社 pp.390-391
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