雇用基盤の縮小を食い止めることは簡単だ。労働力を節減するような技術を使わなければいいのである。果物輸送のために電車やトラックを使うことを禁止すれば,健全な肉体を持った男性をすべて運搬要員として雇うことができるだろう。あるいは,現代の農業技術を使うのをやめれば,私達はみな農民として雇用されるかもしれない(この方法に関しては,フィデル・カストロがよく知っている)。
その通り,私たちは全員,食物を育てるという仕事を得るのである。だが,そうすると私たちが手に入れられるものは,食物だけになってしまう。考えてみよう。1910年には1355万5000人が農場で働いていたが,1970年までにその数は452万3000人に減少した。農業における雇用基盤の縮小を嘆くべきだろうか。いや,嘆くことはない。同じ期間で,1人の農民が供給できる食物の量が7人分から79人分に上昇した。その結果,その分の農場労働者が開放されて,他のものを生産するようになった——たとえば,先進の通信技術などだ。これこそが,先進社会における雇用の本当の目的なのである。単に人を忙しくさせておくことが目的なのではない。
マリリン・ヴォス・サヴァント 東方雅美(訳) (2002). 気がつかなかった数字の罠:論理思考力トレーニング法 中央経済社 pp.146
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