ヤードスティック方式とは,簡単に言えば,ある一定の基準を満たさないと運賃値上げができないというものである。それまで鉄道会社は時代や経営状況などに即して運賃改訂し,それによって安全維持のための設備投資や経営状態を安定させてきた。
しかし,ヤードスティック方式の導入によって賃上げによる改善はできなくなった。鉄道にも合理化の波が押し寄せるようになったのである。
利用者から見れば,もっともな制度だと思うだろう。だが,机上から生まれた制度が鉄道の安全を揺るがしていくことになった。
そもそも鉄道は,机上論では測れない側面を持っている。また,その側面は各社によって様々な性格を持ち合わせている。
例えば,地域による客室であるとか,電車の性質による整備具合であるとか,駅の造りによる安全対策など諸々ある。乗降数が少ない駅でも客室によっては余分な駅員の確保が必要だったり,安全対策に要因が必要になったりと,人を相手にする鉄道は様々な諸事情を持ち合わせているのだ。
しかし,それらも,鉄道の現場をあまり知らない役人達の数式によって計られることになった。鉄道各社ごとに適正コストが割り出され,各社はそのコストを達成するため合理化策を生み出した。そして行き着いたところが,鉄道員を減らして機会化を図り,乗務員に過重労働を押し付ける制度改革だったのだ。
大井 良 (2008). 鉄道噂の真相:現役鉄道員が明かす鉄道のタブー 彩図社 pp.244-245
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