戦後の日本にとって,ある意味で幸いであったことは,戦後の大インフレーションによって国債の価値が急落して,事実上,国債が償還されてしまったことです。戦後の大インフレーションのすさまじさについては,例えば城山三郎の『小説日本銀行』が当時の様子を詳しく描いていますが,1945年秋から1949年春までの約3年半の間に,日本は,物価が98倍になる(消費者物価指数ベース)という大インフレーションを経験しました。
既に述べたように,国債というのは国の借金証書のことですから,国は国債によって借り入れた金額を,一定の期日までに国債購入者に返さなければなりません。例えば額面100万円の3年物の国債を発行すれば,途中半年ごとに利子分を支払うとともに,3年後には,100万円の元本を,購入者に返済することになります。
しかし,物価がその3年間に100倍になれば,100万円の価値は1万円にしかなりませんから,国は,実質的に1万円分だけ,税などで資金調達をして,返済をすればよいことになります。つまり,この戦後の大インフレによって,国の借金の金額はほぼ100分の1にまで,努力せずに縮小することが出来たのです。
鈴木 亘 (2010). 財政危機と社会保障 講談社 pp. 32
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