まず第1の日本国債を日本国民が購入しているから安心だという点ですが,確かに,為替リスクのない日本国民が日本国債を購入している以上,海外投資家に比べて,相対的にリスクに敏感に反応していないということは言えます。この点は,ギリシャや他のEU諸国と大いに違う点であることは正しい主張です。
しかしながら,問題は,むしろ今後の話です。既に述べたように,高齢化で国内の家計金融資産が減少し,財政赤字が続いて債務が上昇してゆく中では,いずれ日本国民が購入できる限界を超え,海外投資家に国債購入を依存する状況になると思われます。95.4パーセントの国内保有率ということは,裏を返せば,日本国債は,海外投資家にとっては,ほとんど魅力がない資産であるということです。魅力を感じない海外投資家に購入を頼る時代になれば,それだけ金利も高くする必要がありますし,ちょっとしたリスクに敏感に反応される可能性も高いものと思われます。
また,いくら日本国債の国内保有率が高いとはいっても,その6割以上は,銀行や保険会社,証券会社などの機関投資家であり,(愛国心のある?)個人投資家ではありません。機関投資家は,銀行であれば少しでも高い預金金利,保険会社や証券会社であれば少しでも高い収益率を求められて競争しているのですから,リスクを感じたときの行動変化は非常に早く,激しいものと思われます。つまり,日本国債のリスクに何らかの変化があれば,個人とは異なり,あっという間に売り抜けようとするはずですから,とても安心できる存在とは言えません。2010年度の「経済財政白書」も,国債の国内保有率と国債金利の間に何の関係もないことを報告しています。
鈴木 亘 (2010). 財政危機と社会保障 講談社 pp. 52-53
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