しかし,「おたく」と称せられる人たちの中でも,アクティブに活動している人たちは,自分がのめり込んでいる対象が虚構の世界であることも,そして自分の活動が世間一般からは価値がないものと考えられていることも,十分に承知しています。いわば,だまされている自分自身を冷徹に見つめながらも,徹底的にその虚構にどっぷりと浸かり,さらには自らその世界を拡張していくことができるのです。
その特徴をよくとらえているのが,「おたく」に特有のパロディ文化です。おたくたちの同人誌のほとんどが,自分の好きな作品のキャラクターを自在に活躍させるパロディで埋め尽くされているのはご存じだと思います。そして,パロディというのは,対象を醒めた目で突き放して見る見方がなければ,生みだされない文化です。評論家の浅羽通明氏の言い方を借りれば,敬虔なキリスト教徒には聖書のパロディを書くことは決してできないのです。
菊池 聡 (2008). 「自分だまし」の心理学 詳伝社 p.216
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