スタビナエ浴場の近くに,ポンペイ一大きな娼館があった。湯と裸とくつろぎという組み合わせは,浴場と娼家がすぐ近くにあるという傾向を生み出し,ときには浴場の2階で娼婦がサービスを行うこともあった。やはりポンペイにあるスブルバナエ浴場では,浴場とセックスのつながりが,そのまま壁画に描かれている。この紀元1世紀の浴場の,黄褐色で彩られた居心地のいい更衣室には,もとは仕切りがあって,そのなかで客が服を脱いでいたのが,その仕切り板が失われてずいぶん経つ。しかし,板が立っていたところの上の壁には,露骨に卑猥なフレスコ画が8つ残っている。魚を振りかざしながら男性に挿入されようとしている女性に,オーラル・セックスをしたりされたりしている女性,ぴったりと合体している3人(男性2人と女性1人)ほか,同じようにお盛んな情景だ。近隣で楽しめるサーヴィスを宣伝している絵かもしれないし,単に浮かれていて感覚に訴える浴場の雰囲気を盛り上げるためのものなのかもしれない。独特の魅力とタッチで筆を走らせているそのフレスコ画は,無邪気なまでにあからさまで,私たちが思いつくような,男性も女性も,おそらくは子供たちも利用する商業施設にふさわしい装飾とは,およそかけ離れている。
キャスリン・アシェンバーグ 鎌田彷月(訳) (2008). 図説 不潔の歴史 原書房 pp.32
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