初期のキリスト教の聖人たちの多くは,汚さを熱心かつ巧みに受け入れた。聖アグネス(3〜4世紀のローマの使徒)は,30年ほどのじつに短い生涯のあいだ,自分の体のいかなる部分もけっして洗わなかった。イングランドの聖ゴドリック(11〜12世紀の隠者)は,体を洗うことも着替えることもせずに,イングランドからイェルサレムまで歩いて行った。(このかぐわしい巡礼のあいだ,ゴドリックは最低限の水と大麦のパンしか摂らず,パンは固くなってから口にした。)イングランドでは,ダラムに程近い森のなかの庵で,毛の肌着を着て過ごしたが,夏のあいだかいた汗とあいまって,大量のしらみがついていた。アッシジの聖フランチェスコ(13世紀に聖フランシスコ会を創始したイタリアの修道士)は汚れを敬い,死後に蛆のわいた僧房に現れて,そこで暮らす修道士たちを褒めたといわれている。
キャスリン・アシェンバーグ 鎌田彷月(訳) (2008). 図説 不潔の歴史 原書房 pp.59
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