キリストの先例に倣い,修道僧たちは来客があると,客人の手足を洗って歓迎の意を表した。自分たちはどうしていたかというと,洗浄式(聖餐式の前後に手と聖器を洗う儀式)は行う——毎土曜日に厳しい洗浄を課している修道院もあった——が,よくよくの機会がなければ全身で風呂を浴びることはなかった。肉欲に苛まれる修道僧は冷水浴を命じられ,温かい風呂は病気のときに入るものだった。スイスのザンクト・ガレンにある9世紀の修道院は,施設内の施療所に風呂があったほか,歩廊にも浴場を設けていた。とはいえ,風呂と修道院の厳しい禁欲的な規約は,相容れない部分も多かった。528年頃に書かれた<聖ベネディクトゥスの戒律>は,手仕事と黙想から成る修道生活のためのもので,老人と病人の慎みについても触れている。「都合のつくかぎり何度でも病人に風呂を許可せよ。ただし健康な者,とりわけ若い者は,めったに許されない」。
キャスリン・アシェンバーグ 鎌田彷月(訳) (2008). 図説 不潔の歴史 原書房 pp.65
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