古典主義時代のあと初めて水に浸かるという恐ろしい行為を薦めたもののひとつが,ジョン・ロックがある少年を育てるために1693年に書いた『教育に関する考察』という論文だ。そのなかでロックは,その子の足を毎日冷たい水で洗い,水を通すほど薄い靴を履かせて,水が靴に入ってくるようにさせない,と薦めている。「そうすることは清潔にするために好ましいことです」(服部知文訳,以下同)と書いているが,「わたくしの意図していますことは健康です」。ロックは,少年の脚全体を水に浸け,その水をだんだん冷たくしていくと,強固で頑健な体になる,とも述べている。ロックという哲学者は医者でもあったのだが,その論は生理学的というよりは,多分に希望的観測に負っている。それに,古典の教養を身につけてきたものだから,あの大昔の“女々しい温水浴”対“雄々しい冷水浴”の論争もよく知っていて,冷水浴を習慣にしていたホラティウスやセネカといったたくましい男たちの肩を断固としてもったのだ。
キャスリン・アシェンバーグ 鎌田彷月(訳) (2008). 図説 不潔の歴史 原書房 pp.124-125
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