輝くように白い歯がいまいちばん求められているとはいえ,かつて衛生のゴールだったことが重要でなくなったわけではない。なにひとつ脱落することなく,新しいニーズがどんどん加わり続けている。この1世紀以上のあいだ,清潔はアメリカ人らしさの決定的な特徴で,アメリカ人かそうでないかを分けるシグナルであり続けてきた。南北戦争のころは,顔と手が垢まみれで,襟と袖口が薄汚れていると,農夫か肉体労働者か,あるいは単に貧乏人ということだった。20世紀のあいだに,見るからに不潔な人はほとんどいなくなり,においが動かぬ証拠になった。石鹸とデオドラント剤のマーケティングや宣伝関係者は,腕を上げては衛生のスタンダードをどんどん押し上げ,広告はいつでもたっぷり実を結び続けた。人の生身のにおいを嗅いだり,自分の生身のにおいを発したりするのは,御法度,ゆゆしい侵犯行為になった。
キャスリン・アシェンバーグ 鎌田彷月(訳) (2008). 図説 不潔の歴史 原書房 pp.257
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