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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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所有すること

 科学者がこうした理論を実験によって証明するようになったのは,やっとここ30年ほどのことだ。所有や所有物といった分野での研究の先駆者であるリタ・ファービーは,人々に自分の所有物について説明してもらい,あらゆる年齢の人々の間で3つの主な傾向があることを発見した。ひとつ目の,そしてもっとも多く見られるものは,所有することによって持主がなんらかの行動をする,または成し遂げられるというものだ。つまり所有することで,個人的なパワーあるいは権力が生まれるのである。所有物には道具としての価値があり,何かをしたり,周囲の状況をコントロールしたりするために必要な道具となるのだ。このことは,私たちが以前行ったホールディングの調査の結果を反映している。私たちが調べたホーダーそして非ホーダーの人々は,自分がモノを所有するのはそれらの使い道があるからだと述べた。つまりホーダーとそうでない人の違いは,彼らが「使い道がある」と考えるモノの数とその種類の多さなのだ。たとえば,ある年配のホーダーは,缶やビンのラベルを文房具として使おうと溜めこんでいた。
 2つ目の傾向は,所有物によって安心感を得られるというものだ。これはウィニコットの「移行対象」の名残である。このテーマを主張した分析医アルフレッド・アドラーは,古典的な精神分析学とたもとを分かち,人は誕生時から抱く劣等感を埋め合わせるために所有物を集めるのだと考えた。一方,無生物が気持ちを慰めてくれることを示したのが,ハリー・ハーロウである。彼の有名な実験では,猿の赤ん坊に柔らかい布製の代理母と,ワイヤーメッシュ製の代理母を与えたところ,ワイヤーメッシュ製の母親が食べ物をくれ,布製の母親はくれないにもかかわらず,子猿たちは柔らかい代理母の元へ走り,その手触りから落ち着きや安心感を得たのである。このようにモノによって慰められることから,たとえばアイリーンはモノの要塞を造ったし,私たちの患者の多くは自宅を「繭」や「隠れ家」と表現する。最近スティーヴン・ケレットが打ち出した理論では,ホールディング行動は動物の巣作りのように,維持するための試みから発達したのだという。
 3つ目の傾向は,ちょうどサルトルが考えたように,所有物が持ち主の一部として感じられることだ。本人にも説明することが難しい感覚だが,こうした強い愛着によってその人の自己認識や自分の力の感覚が強まり,潜在的な能力が広がるのである。たとえばピアノを手に入れることでピアニストになる潜在的な可能性が生まれ,そのことによって自己認識が広まるというわけだ。モノはまた個人誌をそこに閉じ込めて保管することにより,その人の自己同一性(アイデンティティ)を維持する役目を果たす。ほとんどの人は自分の過去の思い出の品を取っておく。そのような思い出の品は,以前の経験のときに抱いた感覚,考え,感情を保存する容器のようなもので,過去の音楽を耳にしたり,香りをかいだりしたときに思い出が圧倒的な強さでよみがえるのを助けることになる。

ランディ・O・フロスト ゲイル・スティケティー 春日井晶子(訳) (2012). ホーダー:捨てられない・片付けられない病 日経ナショナルジオグラフィック社 pp.68-70
(Frost, R. O. & Steketee, G. (2010). Stuff Boston: Houghton Mifflin Harcourt)
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