アメリカ精神医学会から出版されている『アメリカ精神医学会精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)』は,精神障害の定義を知るためのバイブルだ。最新の版では,ホーディングが強迫性人格障害(OCPD)に含まれる8つの症状のひとつとして分類されている。そこでの定義は「古くなったものあるいは無価値なものを,それらに対する思い入れがなくなった後も処分できない」ことである。
デブラ,アイリーン,その他多くのホーダーと話した後では,この定義にある「思い入れのないもの」という表現が不可解だった。結局,それは主観的な表現であり,私たちの調査ではホーダーの家に溜めこまれた多くのモノには強い思い入れがあったからである。思い入れたっぷりのモノは大切な人や出来事と結びついているために感情的に重要であり,ごく普通に存在する。私たちの誰もが,そうしたモノを持っている——大好きなアーティストのコンサートのチケットの半券,ずっと昔のウェディングケーキの残り,子供が初めて絵を描いた紙切れといったものだ。この意味で,ホーディング行動は異常でも何でもない。アイリーンやデブラ,そして多くのホーダーが私たちと異なる点は,彼らが持ち物の大半に強い思い入れを抱くことで,傍から見ればただのモノやゴミにまでそれが及んでいることだ。他の人にはわからない特別な意味を見出す能力は,彼らの好奇心や創造性豊かな精神から生まれ,そうした愛着となっているのである。「すべてを経験したい」という欲求により,ホーダーはさまざまなモノに愛着を感じるのだ。
ランディ・O・フロスト ゲイル・スティケティー 春日井晶子(訳) (2012). ホーダー:捨てられない・片付けられない病 日経ナショナルジオグラフィック社 pp.131-132
(Frost, R. O. & Steketee, G. (2010). Stuff Boston: Houghton Mifflin Harcourt)
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