社会統計を解釈するときには,物事の規模を大雑把にでもつかんでおくのが役に立つ。ベンチマークとなる数字をほんのいくつか知っておくだけで,何らかの数字に出会ったときに,それについて評価を下すための予備知識をもつことができる。たとえば米国社会について考えるとき,次のことを知っておくと役に立つ。
・米国の人口は3億をいくらか超えている。(2006年10月にこの大台に乗ったときの大騒ぎをご記憶かもしれない。)
・米国では毎年およそ400万人の赤ちゃんが生まれる。(2004年には,411万2052人)。これは,とくに子どもや若者について考えるとき,意外に役に立つ情報だ。1年生は何人いるか。約400万人。18歳未満の米国人は何人いるか。およそ400万×18,つまり7200万人。子どもは男女がおおよそ同数なので,10歳の女の子は200万人くらいだと計算できる。
・毎年およそ240万人の米国人が死ぬ。(2004年には239万7615件の死亡が記録されている)。4人に1人ちょっとが心臓病で死ぬ。(2004年には27.2%)。がんで死ぬ人もほぼ同じくらいだ。だから,心臓病で死ぬ人と,がんで死ぬ人を合わせると半分ちょっとである。(2004年には120万6374人,つまり50.3%)。これとくらべて,盛んに報道される死因のなかには,ずっとまれなものがある。たとえば交通事故で死んだ人は2004年にはおよそ4万3000人,乳がんは4万人,自殺は3万2000人,殺人は1万7000人,HIVは1万6000人だ。つまり,今あげた死因のそれぞれが占める割合は,死因全体の1%か2%である。
・人種と民族をめぐる統計は厄介だ。こうしたカテゴリーの意味が明確でないからである。しかし一般に,自分を黒人とかアフリカ系米国人と認識する人々は人口の13%弱——およそ8人に1人を占めている。(全人口が3億人を超えていることを思い起こせば,米国の黒人はおよそ4000万人いると計算できる。3億÷8=3750万だ)。自分をヒスパニックあるいはラティーノと認識する人はもう少し多い——14%を超えている。つまりおよそ7人に1人だ。だが人々を人種的あるいは民族的カテゴリーにきれいに分けることはできない。おおかたの政府統計はヒスパニックを人種的カテゴリーというより民族的カテゴリーとして扱っている。というのも,ヒスパニックは,自分の属する人種について,人によって考えが異なるかもしれないからだ。たとえば2007年に国勢調査局は,ある報道発表資料で,今や「マイノリティー(少数集団)」が米国の人口の3分の1を占めていると発表したが,そこで,「非ヒスパニックで単一人種の白人は総人口の66%」という言い方をした。ごたごたした言い回しに注意していただきたい。「非ヒスパニック」という言い方が用いられているのは,自分の民族性をヒスパニックに分類する人のなかに,自分の人種を白人とする人がいるからだし,「単一人種」は,祖先にいろいろな人種がいる(たとえば祖先にアメリカインディアンがいるなど)と申告する人がいるからだ。要するに,自らを白人と考えているのに,国勢調査局によってマイノリティーしゅうだんに分類されている人がいるのである。人々を人種と民族に分類するための唯一の権威ある方法などないのだ。それでも,米国の人口の民族的,人種的構成を大雑把にでもつかんでおけば役に立つことがある。
ジョエル・ベスト 林 大(訳) (2011). あやしい統計フィールドガイド 白楊社 pp.19-22
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