おおかたの社会問題は,こういうパターンを示す。つまり,それほど深刻でない事例はたくさんあり,大変深刻なものは比較的少ないのだ。この点が大事なのは,社会問題についてのメディアの報道やそのほかの主張で,不安をかきたてる象徴的な例が大きく扱われることが多いからだ。つまり,その問題を説明するために劇的な事例が使われるのである。そうした例はたいてい悲惨な話で,まさに人々をぞっとさせ,動揺させるから選ばれるのだ。だが裏を返せば,そうした例はたいてい典型的なものではないのである。その問題の事例のおおかたは,その例ほど心配なものではないのだ。それでも,その問題の広がりをめぐる統計に恐ろしい例を結びつけてしまいやすい。たとえば,未成年の大学生が急性アルコール中毒で死んだという話(恐ろしいがめったに起こらない出来事)が報道されると,それが,酒を飲む未成年の大学生の(大きな数であるのは疑いない)推定人数と結びつけられかねない。そこでほのめかされるのは,キャンパスでの飲酒は,死を招く問題だということだ。もちろん,酒を飲む学生の圧倒的多数は,死ぬことなく大学生活をおえるのだが。
ジョエル・ベスト 林 大(訳) (2011). あやしい統計フィールドガイド 白楊社 pp.26
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