1998年に連邦政府が,「太りすぎ」というカテゴリーを定義しなおした。それまでは,男性なら,肥満度を示す体格指数(BMI)が28,女性ならBMIが27より低ければ,正常と判断されていた。ところがこのとき男女とも,BMIの正常な値の上限が25に引き下げられた。肥満度が正常だとされていた米国人のうち2900万人が,この再定義によって突然,太り過ぎに分類しなおされた。つまり今や公式の判断基準によって健康上の問題があることになったのだ。
この変化——だれ1人として1ポンドも太らないなかで起こった変化は,重大な社会的影響をもたらした。太りすぎの定義を広げたということは,体重の問題を抱える米国人が増え,体重についての医学的研究がもっと重要になるということだった。(なぜなら,より多くの人たちに影響を及ぼすわけだから。)これで,体重の問題に対処しようとする政府機関(たとえば疾病予防管理センター)は,自分たちの仕事にもっと高い優先順位が与えられるべきだと主張することができたし,やせ薬に取り組んでいる製薬会社は,将来の利潤が増えると期待できた。
ジョエル・ベスト 林 大(訳) (2011). あやしい統計フィールドガイド 白楊社 pp.79
PR