自閉症の発症率が劇的に上昇しているという話がメディアやインターネットで広がっている。自閉症の原因は何か。また,自閉症と診断される人の数が劇的に増えている原因は何か。医学の権威は,自閉症の原因は遺伝的なものだとする傾向があるのに対し,自閉症のアドボケートには,汚染されたワクチン,食事,テレビなどの環境が影響だと指摘する人が多い。
こうした説明の多くが無視しているが,考慮すべきであるのがもっと明らかなことがある。それは,自閉症の定義が広がったことだ。1980年に米国精神医学会が定めた診断基準では,自閉症と診断されるには6つの症状を示していなければならなかった。1994年には新たな基準が定められ,16個の症状のうち8つに該当すれば自閉症と診断されることになった。しかも,新たに列挙された症状は幅広く,前ほど具体的ではなかったので,基準を満たすのがずっと容易になった。さらに1980年には自閉症は2種類しか認められていなかったが,それが1994年には5種類に増えた。そこには「軽度なタイプ」が2つ含まれており,全診断例の4分の3を占めていた。(ここでもまた,とりわけ深刻な事例はとりわけめずらしい事例だという原理が確認される。)言い換えれば,自閉症と見なされる振る舞いの範囲が今ではかつてよりずっと広いのだ。この病気の定義はこのように変わった。さらに自閉症についての人々の認識が高まっていて,そのことによっても事例が見逃されにくくなっていることを勘定に入れれば,自閉症の症例が本当に急増しているということはなさそうに思われる。
ジョエル・ベスト 林 大(訳) (2011). あやしい統計フィールドガイド 白楊社 pp.140-141
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