自己コントロールの道徳的側面を考えると,どうしても政治色を帯びてくる。自分の人生の決め手は自分の努力と意志だと信じている人と,人生は遺伝と環境のせいだと(自分ではどうしようもない要因のせいだと)信じている人とでは,税制や規制,所得再配分についての感じ方が大きく違う。一般的に保守派はリベラル派よりも,人には自分をコントロールする能力があると強く信じているようだ。ただし女性やマイノリティ,そして地球に有害な行動は例外で,これらの問題については両者の立場は入れ替わる。どちらにしても,意志の強さについて問題を抱えている者が多いという事実から,国民を当人自身から救うために政府がどこまで介入すべきかという大きな課題が生まれる。そして保守派もリベラル派も自由を主張しつつ,同時に離婚や中絶を規制するとか(保守派),税や規制を増やす(リベラル派)などによって,人々の自由行使に政府が介入することを支持している。
ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.26
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