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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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自己コントロールと体重

 自己コントロールという難題をなによりもよく表しているのは,世界中の人たちが体重で苦労していることかもしれない。ほんの1世代前には世界最大の食糧問題といえば飢餓だったし,いまでも多くの場所で人々は飢えている。だがやっと豊かになった何億人もの人たち,そして前よりももっと豊かになった何億人もの人たちにとって,ますます大きくのしかかるようになった健康問題といえば肥満しかない。
 とくにアメリカではその傾向が強い。アメリカ人の太い胴回りは過剰な暮らしのシンボルとなり,病的肥満は公衆衛生上の「第2のタバコ」問題と言われている。アメリカ人の肥満が深刻になったのはここ30年くらいで,おおざっぱに言うと現在,成人の3分の1は病的肥満,あとの3分の1は病的とはいかないまでも太りすぎだという。この驚くべき変化の原因は,自己コントロールの問題で毎度登場する技術の進歩,社会的な変化,豊かさである。このすべてを表す驚くべき事実がある。わたしたちはどんどん太りつつあるわけだが,インフレ率調整後のカロリー当たりの価格はたぶんエデンの園の時代以来,最低水準に落ち込んでいるのだ。たとえば1919年,アメリカ人は1.3キロほどのチキンを買うために平均して158分,働かなくてはならなかった。それがいまでは15分程度の労働で内蔵を処理したチキンが買える。ソーダ水や冷凍食品,ファストフードその他の調理済み食品の値段も急落した。ジャガイモはどうか。第二次世界大戦以前,アメリカ人はジャガイモをたくさん食べていたが,フライドポテトはめったになかった。手間暇がかかりすぎるからだ。ところが食品科学の進歩によって,マクドナルドでは冷凍のフライドポテトがいつでも安く手に入るし,家庭で電子レンジで調理するのも簡単になった。当然ながらジャガイモの消費量は激増し,そのほとんどはフライドポテトである。状況はこれほど変化したのに,人間はこの豊かな環境に適応できるほど進化していない。それがアメリカ人の大多数が太りすぎという結果になって現れている。

ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.42-43
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