いまは『スターウォーズ』に出てくるヨーダを思わせる風貌になったミシェルは,もぞもぞしたり即興であれこれ工夫したりする子どもたちを何時間もマジックミラー越しに観察した。そしてベルを鳴らすまでに我慢できる時間(ベルを鳴らす場合には)は,子どもがどうやって誘惑をやり過ごすかに左右されることに気づいた。「重要なのは子どもたちの頭の中で起こっていることで,じつはそっちのほうが目の前のものよりも強い力をもっている。我慢できる時間は頭のなかの『ホットな』あるいは『クールな』イメージと,我慢しているあいだ関心をどこに向けるかによって違う」。
脳が「ホットな」領域と「クールな」領域に分けられるという考え方は,いまでは研究者たちにかなり受け入れられている。クールな領域は海馬と前頭葉だと見られており,哲学者がいう理性に該当する。計画をたて,自分に有利に行動する合理的な部分だ。ホットな領域はもっと原始的で,幼いころに発達する。こちらは生存に直接かかわる機能で反射的に働く。食欲や危険に際しての逃げるか戦うかという反応その他,刺激に即反応する部分だ。ミシェルら研究者たちは,脳のホットなシステムからクールなシステムに移行できた子どもはうまく我慢できるのではないか,と考えている。最近のインタビューでミシェルは「マシュマロは甘くておいしいだろうなと考えたら1分も待てなかった子どもが,マシュマロは綿の塊みたいにふんわりしているとか,空に浮かぶ雲のようだと考えると20分も我慢できる」と語った。
ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.152-153
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