ミシェルは我慢できた子とできなかった子で大学適性試験にどれほどの違いが出たかは発表していないが,ある人々には210ポイントの違いがあったと語っている。これはそうとう大きな違いだ。それだけではない。ミシェルによると,我慢できる時間が最も短かった子どもたちは平均して成績が低くて停学処分も多く,「たいていはいじめっ子に育った」という。「楽しみを我慢する能力は体重とも関係があった。我慢できる時間が長かった子どものほうが細かったのだ(この発見は最近行われた1800人以上の子どもたちを対象とした2つの調査の結果とも一致する。研究者たちはミシェルと同じように,4歳児と5歳児に,我慢できたらもっといいおやつをあげるよ,と言った。楽しみを先延ばしにできなかった子どもたちは,11歳になったときに太っている場合が多かった)」。
ミシェルは現在,研究成果に手ごたえを感じており,おとなになったビング・ナーサリースクールの子どもたちのフォローアップを続けている。もう1つの研究ではかつての子どもたちは平均して27歳になっているが,ミシェルら研究者たちは,社会的不安の尺度である拒絶に対する感受性に着目し,4歳児のころの成績とどう関係するかを調べた。こちらはビングの卒業生152人が対象で,拒絶に敏感だと問題を抱えがちだが,ナーサリースクール時代に我慢する力が大きかった子の場合はそれほど大きな問題になっていないことがわかった。拒絶に敏感で子どものころ我慢する力が低かった人たち(どうしても待てなかった子どもたち)は,その後の教育水準が低く,コカインやクラックを使用している割合が高かったという。
では4歳児はマシュマロやプレッツェルを前にしてどれくらい我慢できたのか。ミシェルらは185人の子どもたちを対象とした研究の報告で,我慢できた時間は平均して512.8秒,つまり9分未満だったと述べている。目の前のおやつやその他の状況にもよるが,全体としては4歳児たちが我慢できる時間は7分から8分だった。だが,なかにはずっと長く,20分も我慢できる子どもたちもいた。
ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.154-155
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