2005年,ダックワース(元教師)とセリグマンはさまざまなカリキュラムをもつマグネット・スクールに通う多様な人種の140人の8年生(中学2年生)を対象に調査を行なった。まず親や教師から聞き取りをし,本人にも,悪い習慣をやめるのは大変ですかというような質問をして,生徒たちを自己コントロール能力別に分けた。これが学年が始まったばかりの秋のことで,翌年の春に研究者たちはふたたび学校に出かけ,自己コントロール能力を学習態度,成績,標準テストの成績,それに競争の激しい高校への入学状況などとの相関関係を調べた。
ダックワースとセリグマンはほかの164人の8年生を対象に同じ調査を繰り返し,今度は楽しみを先延ばしにする実験と知能テスト(IQ)との関係を調べた。するとIQよりも自己コントロール能力のほうが,将来の成績を予測する指標としてはるかに優れていることが明らかになった。学校では持続的な努力が求められ,楽しみを我慢して宿題をしたり,学期末にもらう成績を良くするために着実に勉強しなくてはならないから,この結果は意外ではない。自己コントロール能力は,学習態度や宿題に費やす時間,さらには毎晩何時に宿題を始めるかなどにも正確に反映されていた。またテレビを見る時間ともはっきりした相関関係があった。自己コントロール能力のスコアが高い子ほど,テレビを見る時間は短かった。セリグマンたちは歯に衣を着せずに言う。
「アメリカの子どもたちの成績が悪いのは,教師の能力が低い,教科書が退屈,1学級の人数が多すぎるなどのせいにされることが多い」とセリグマンらは語った。「だが,わたしたちは,知的能力があっても成績が悪いのには別の理由があると考える。自己コントロール能力が低いことだ……アメリカの子どもたちの多くは,目先の楽しみを我慢して長期的な利益のために努力することが下手なのではないかと思う。自己コントロール能力を鍛えるプログラムこそが,学業成績を上げる王道ではないか」。
ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.156-157
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