スチュワート・ヴァイスは双曲線割引を説明するとき,学生に2つの封筒を示す。1つには10ドル,もう1つには12ドル入っている。当然,学生たちは12ドルの封筒を取る。つぎにヴァイスはいまの10ドルと1週間後の12ドルのどちらを選ぶか,と尋ねる。このときには学生たちはまだ12ドルのほうを選ぶ。だが,12ドルを受け取るのは2週間,あるいは3週間先となると,状況は変わる。ほとんどの学生はいまの10ドルのほうがいいと言う。それだけではない。どの時点で額は小さくてもすぐに受け取れるほうを選択するかを確認したあと,ヴァイスは金額の差はそのままに,どちらも受け取りをずっと先に延期して設定した。たとえば28週後の10ドルと30週後の12ドルでは,どちらを選ぶ?受け取りが遠い将来に設定されたところで,学生の選択は元に戻り,ほとんどが大きい金額を選択した。これは「時間の不整合」の典型的な例だ。合理的に考えれば,どの時点でも将来の大きい金額を選ぶはずだろう。待つ時間の差は変わらないのだから。
ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.238
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