「自我の消耗」と呼ばれるテーマの研究は非常にわかりやすい。研究者たちは被験者の自己コントロール能力に(チョコレートチップクッキーの皿を前において我慢するというように)負荷をかけ,そのあともっと自己コントロール力を必要とする作業をさせる。負荷をかけなかった対照群の人たちに比べて,負荷をかけられて消耗した人たちはほぼ決まって2番目の作業の成績が良くない。シロクマのことを考えないようにしてください,と言われた人たちは,その後,滑稽なビデオを見せられると笑いを抑えられなくなる。最初にチョコレートを我慢させられた人たちは,その後で難しい問題を解かせるとすぐに諦めてしまう。自己コントロール力が消耗した人たちはくだらない娯楽や食べ物を選ぶ。ダイエット中なら,食べ過ぎる。
興味深い研究がある。被験者に「退屈な歴史上の人物の伝記を音読してください」と頼むのだが,その際に身振りや表情でできるだけ感情を強調してくださいと指示する。別のグループにも同じ文章を音読してもらうが,こちらは読み方を指示しない。そのあと,全員がありふれた商品を割安で購入するチャンスを与えられる。感情的に消耗した人たちのほうがよけいにお金を使った,と聞いて意外に思われるだろうか?さらに,消耗していた人たちは値段が高くても買う傾向があった。
ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.345-346
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