この単純な作用が,占いが当たる理由も説明してくれる。占い師や霊能者が口にする言葉はあいまいなので,何通りにも解釈できる。たとえば,占い師が「住まいについて大きな変化」と言った場合,その意味としては自宅の引っ越し以外に,知り合いの転居に手を貸す,家を相続する,自宅から下宿に移る,海外に別荘を買う,などいくつも考えられる。また,この言葉には時間的な表現が含まれていないので“変化”の時期は近い過去,現在,未来のいずれとも受け取れる。見てもらう側は,占い師の言葉に意味を見つけようと懸命に努力する。自分の人生を振り返り,言われた言葉にあてはまるできごとを探しだす。そして占いが当たったと,自分に言い聞かせる。このプロセスは,実際の占いに入る前から働きはじめる。たいていの占い師が,占いの言葉は完全な形をとらないことを,客にあらかじめわからせておく。くもりガラスを通して見るようなもの,あるいは暗闇で声を聞くようなものだと断りを入れるのだ。あいまいな部分を埋めるのは,客自身の力である。そのうえで占い師は,フォックス博士やイライザと同じように,意味のない言葉を口にする。それをうるわしい事実に変えるのは客自身なのだ。研究者のジェフリー・ディーンは,この現象を「プロクルステス効果」と名づけた。プロクルステスとは,自分のベッドの大きさに合わせて泊まり客の手足を強引に切り落としたり,引き伸ばしたりするギリシア神話の人物である。
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2012). 超常現象の科学:なぜ人は幽霊が見えるのか 文藝春秋 pp.38-39
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