1980年代のはじめに,カリフォルニア州立大学の心理学者バリー・シンガーとヴィクター・ベナッシが,有名な実験でこの原則の威力を実証した。シンガーとベナッシはクレイグという若いマジシャンに,紫の衣にサンダル,そして大袈裟なメダルを着けさせ,学生グループの前でマジックを実演してもらった。実験者は片方のグループにはクレイグをマジシャンと紹介し,もう片方のグループには本物の霊能者と紹介した。どちらの場合も,クレイグは読心術や金属曲げの技をふくむ簡単な手品をいくつか披露しただけだった。終わったあと,実験者は学生全員にクレイグに超能力があると思うか訊ねた。すると「クレイグは霊能者」と紹介された学生の77パーセントが,正真正銘の超能力を見たと答えた。それ以上に驚くべきは,「クレイグはマジシャン」と紹介された学生の65パーセントも,彼を超能力者と答えた点である。心のなかでありえないことに対する受け入れ態勢ができている人たちには,紫の衣,サンダル,メダルが大いに効果を発揮するようだ。
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2012). 超常現象の科学:なぜ人は幽霊が見えるのか 文藝春秋 pp.106-107
PR